男性保育士は女性の保育士と比べて数が少ないことから「どのような働き方をしているんだろう?」と感じていらっしゃる方もいると思います。
保育士は保母という名称で呼ばれていた歴史があり、女性の仕事というイメージが強い職業です。
保育士は、長い間「保母」「保父」の名称で親しまれてきましたが、平成11年4月の児童福祉法施行令の改正により「保育士」という名称に変更されました。
引用:全国社会福祉協議会「保育士」
しかし、実際には男性保育士ならではのやりがいや役割もあるため、自分に合った保育施設をしっかり選べば活躍できるチャンスも豊富です。
そこで本記事では、男性保育士が活躍できるポイントや働きやすい保育施設の選び方などについて詳しく解説します。
本格的に就職・転職活動を始める前に、男性保育士の仕事のやりがいや注意点をよく把握しておきましょう。
- 男性保育士の割合は保育士全体の4%ほど
- 男性保育士は社会的なイメージや保育士特有の人間関係から働きづらさを感じることがある
- 男性保育士であっても大規模な保育園や企業内保育所などであれば働きやすい可能性がある
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男性保育士の割合は全体の4%ほど
厚生労働省の資料によると、男性保育士の割合は全体の4%で女性保育士の割合が全体の95.8%ということがわかっています。
年齢構成 | 男性保育士の割合 | 女性保育士の割合 |
---|---|---|
30歳未満 | 1.6% | 31.4% |
30代 | 1.4% | 24.1% |
40代 | 0.4% | 20.1% |
50代 | 0.2% | 14.2% |
60代 | 0.3% | 5.4% |
70代 | 0.1% | 0.6% |
合計 | 4.0% | 95.8% |
一般的に、保育士は女性のイメージが強いように、実際のデータからも女性の保育士は男性保育士よりも圧倒的に多いことがわかります。
また、男性保育士の割合は30代から40代にかけて大幅に減少しており、1%未満になっていることも特徴的です。
男性保育士が少ない理由としては、以下のような原因が考えられます。
ここからは男性保育士が少ない理由を解説していくので、ぜひ参考にしてください。
保育士の社会的イメージから男性は少ない傾向にある
保育現場に男性が少ない理由は、保育士が社会的に女性が多い職業というイメージがあるため、男性が入職しにくい可能性が考えられます。
実際に、保育士試験合格者を対象とした就業意思に関する調査では、女性85.2%が就業意思があるのに対し、男性は72.3%と差があることがわかります。
就業意思あり | 就業意思なし | |
---|---|---|
男性 | 72.3% | 27.7% |
女性 | 85.2% | 14.8% |
保育士の仕事は他の同僚とも協力しながら仕事を進めないといけないため、周囲に女性が多ければ、女性の考え方をよく理解しないといけません。
男性の中には女性の多い職場だと恐縮してしまい、実力を発揮できない場合もあるため、男性は入職を悩んでしまうと考えられます。
転職サービスに関しても、男性保育士向け求人を探しやすい保育士転職サイトは少なめで、求人数も少ない印象があります。
平均勤続年数は女性保育士と比べて1.3年短い傾向にある
令和5年賃金構造基本統計調査を見ると、保育士の平均勤続年数は女性が8.6年、男性が7.3年で男性のほうが女性より1.3年短い傾向があります。
男性 | 7.3年 |
---|---|
女性 | 8.6年 |
合計 | 8.5年 |
厚生労働省のデータでは、男性保育士の割合は40代以降になると保育士全体の1%未満になり、定年まで働く方は多くありません。
男性保育士が長く続かない理由の一つとしては、「保育士の給料の安さ」が挙げられます。
実際、東京福祉局の調査によると、男性保育士の退職意向理由は「給料が安い(79.1%)」が最も多く、約8割が不満を抱えていることがわかります。
男性20代 | 男性30代以上 | 男性合計 |
---|---|---|
給料が安い(84.7%) | 給料が安い(63.3%) | 給料が安い(79.1%) |
仕事量が多い(65.9%) | 職場の人間関係(53.3%) | 仕事量が多い(61.7%) |
労働時間が長い(48.2%) | 仕事量が多い(50.0%) | 労働時間が長い(43.5%) |
男性保育士の中には、「将来家庭を持った際に保育士の給料では難しい」という不安を感じている方も見られます。
“男性という点で、将来的には別のステージに立つべきなのかという不安や、将来家庭を持ちたいと考えるときに、今の給与では中々踏み切ることに躊躇いがある。業務負担面から言うと、1人が背負う負担を削減し、その分を子どもたちの心に寄り添うことに集中できる環境を整えることが大切であると考えます。”(男性・20~24歳)
引用:東京都福祉局「保育士有資格者全体の実態」
このように男性保育士は保育士の仕事を一生続ける可能性が低いため、男性保育士の数がなかなか増えにくいとも考えられます。
男性保育士が保育士として活躍できるポイント
男性保育士が保育士として活躍できるポイントは主に3つあります。
実際に、男性保育士は保育施設でどのように活躍しているのか、それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。
体力面で期待される
男性保育士は女性保育士から体力面で期待されることが多くなります。
- 鬼ごっこなど体力を消耗する遊び
- お散歩カートの運転
- 行事の設営
男性保育士は、子どもたちと思いっきり遊んだり、子どもたちを乗せたお散歩カートを操作するなど活躍できる場面がいくつもあります。
ただし、周囲のこうした期待は決して悪意があるわけではありませんが、男性保育士にとっては大きな「ストレス」になる可能性もあります。
郡山市の男性が保育士を辞めた理由はもう一つあった。男性らしさを求められる場面が多かった点だ。勤務先には、男性保育士は他にいなかった。防犯や遊具の修繕、除草などの仕事が次々に回され、保育の仕事を中断することもあった。勤務時間は同僚の女性より3時間長い日も。冬場は雪かきで出勤時間が2時間早まった。10年以上の経験に釣り合う仕事を任せてもらえないもどかしさが募った。「男性だからと自分だけ仕事を押し付けられることがストレスだった」と振り返る。
引用:福島民報「男性の性差別 偏見感じ保育士断念 理解、信頼生む環境醸成を」
このため、「体力面ばかり期待されてしまうのは不安だな」と思う方は、面談時に自分に期待される役割についてよく確認しておくようにしましょう。
男性保護者と信頼関係を築きやすい
男性保育士は、男性保護者と信頼関係を築きやすいというメリットもあります。
実は、男性保護者の中には「子どもとの関わり方がわからない」「叱り方に悩んでいる」など、子どもの教育に悩んでいる方も少なくありません。
その点、男性保育士は同性なので男性保護者も気軽に相談しやすく、距離感を縮めやすいという強みがあります。
また、男性保育士がいることで、男性保護者を園の運営に巻き込みやすくなり、保護者と園の協力体制が強化されるのも良い点です。
男性保育士がいることで、保育の現場で、主観的・感情的判断と客観的・理性的判断とがバランスよく行われるようになった。また、「背中を見せて遊びこむ」という遊びのスタイルにより、子どもの体験がより豊かなものとなったとのこと。また、男性保育士がいることで、園児の父親を園運営に巻き込みやすくなった点も見逃せない。
引用:内閣府男女共同参画局「男性保育士が活躍している保育園」
このように、男性保育士は男性ならではの判断力だけではなく、子どもや保護者との関わりにおいても独自の強みを発揮することができます。
男児の保育に期待される
男性保育士は同性ならではの心情理解ができ、ダイナミックな遊びにも対応できるため男児の保育でも期待されています。
特に、男性保育士のいる保育所では、川遊びや虫取りなど女性では対応が難しい遊びも行われているため、さまざまな体験を提供できるのが魅力です。
このように男女両方の保育士がいる保育施設では、多様性を受け入れたバランスの良い保育が実現できます。
子どもは男性保育士が相手だと、全力で挑んでくることも多いため、子どもとの遊びは相当な体力が必要です。
ただし、男性保育士はどんなに遊びに夢中になっても、子どもがケガをしないように常に安全面に気を配る必要があります。
また、男児の中には暴力や暴言などにより他の子どもを傷つけ、女性保育士の言うことを聞かないことも少なくありません。
このようなときは、男性保育士が子どもと女性保育士の間に入り、問題行為を起こす子どもをサポートすることも期待されています。
男性保育士は女性とは違った働きづらさを感じる場合がある
男性保育士には、以下のように働きづらさを感じる場面が3つあります。
男性保育士はどのようなときに不満を感じやすいのか詳しく解説します。
女性職場のため人間関係で疎外感を感じやすい
男性保育士が働きづらさを感じる場面として、女性職員が多く保育士の人間関係で疎外感を感じやすいことが挙げられます。
「なんとなくいつも集団で話しかけにくいな」「女性の会話についていけない」など、男性は気後れしてしまうこともありますよね。
男性保育士は、仕事で悩みを抱えても気軽に相談できる相手がいないため、結果的に孤立して一人で悩んでしまうことも少なくありません。
また、女性同士の面倒な人間関係に巻き込まれてしまったり、特定の女性職員や女性保護者と噂になると周囲との関係が悪くなる恐れもあります。
男性保育士が歓迎されやすい環境か、排他的な環境かは各施設によって異なります。
このため、男性保育士が就活・転職をする際は、保育園見学で事前に園の雰囲気をよく確認しておくことが重要です。
園見学の際に、男性に対する態度がよそよそしかったり、女性職員の言動がきつく感じられる場合は、男性にとって働きにくい可能性があるでしょう。
一方、男性も女性も関係なく、どの職員も生き生きとしており、オープンな雰囲気がある園は男性保育士にも働きやすいはずです。
保護者と信頼関係を構築するまで時間がかかることがある
男性保育士は保護者と信頼関係を構築するまでに時間がかかるため、働きづらさを感じる場合もあります。
実際、東京都福祉局による「保育士の仕事で負担に感じること」の調査結果を見ると、男性20代が保護者対応を苦手にしていることがわかります。
以下の表では、保育士の仕事で負担に感じることで「保護者対応」を挙げた割合をまとめているのでぜひ参考にしてください。
女性20代 | 56.1% |
---|---|
女性30代 | 53.5% |
女性40代 | 42.6% |
女性50代以上 | 38.9% |
男性20代 | 57.4% |
男性30代以上 | 43.4% |
特に、男性保育士が排泄の介助やおむつや衣類の交換をすることに対し、女児を持つ保護者から否定的な反応を示されることも少なくありません。
こうした保護者への対応は、何年勤務しても完全になくなることはないため、人によっては辛く感じてしまう場合もあるでしょう。
ただし、男性保育士が時間をかけて丁寧に保護者へ接していれば、次第に保護者へ誠実さが伝わり、信頼関係を築くこともできます。
男性保育士は最初こそ保護者から距離を置かれてしまいがちですが、根気よく対応していけば、女性保育士と同様に問題なく活躍できる可能性があります。
男性保育士を受け入れていない施設もある
多くの保育施設は女性職員用のトイレや更衣室などしか用意していないため、男性保育士を受け入れていない施設もあります。
このため、就職や転職をする時点で男性保育士は雇用の入り口が狭くなることがあるので注意が必要です。
設備が十分整っていない園で男性保育士を受け入れた場合、大人用トイレを男女で共有したり、男性が備品室やトイレで着替えるケースが見られます。
・A保育園は、女性用更衣室が有るが、男性の更衣室はなく、男性は空いている備品室等を利用している。大人用トイレが3か所あり、全て男女で共用している。
引用:社会福祉法人日本保育協会「保育士の育成に関する研究 男性職員に焦点を当てて」
・B保育園は、女性はロッカー更衣室がある、男性の更衣室はなく、着替えの際は大人用トイレ等を利用している。大人用トイレは1か所を男女で共用している。
・C保育園は、女性用更衣室が有るが、男性更衣室はなく、着替えの際は大人用トイレ等を利用している。大人用トイレが4か所あり男女で共用している。
・D保育園は、女性用更衣室が有る、男性更衣室はない。着替えの際は大人用トイレ、事務室(カーテンで仕切る)等を利用している。大人用はトイレ1か所有り、男女で共用している。
・E保育園は、男女とも更衣室有る。大人用トイレが4か所あり、男女で共用している。
このように設備が整っていない園では、男性も女性もお互いに不便な思いをするため、男性保育士を積極的に採用しにくいと考えられます。
男性保育士でも働きやすい保育施設や働き方はある
男性保育士は就職や転職の際に働きやすい保育施設をしっかり選ぶことで、長く活躍することができます。
例えば、男性保育士を積極的に採用している保育施設の1つとして「どろんこ会」が挙げられます。
東京都,埼玉県を中心に134か所(平成30(2018)年12月現在)の保育所等を運営する社会福祉法人どろんこ会は、積極的に男性保育士を採用し、保育士の10.5%、園長等の管理職の26.6%が男性となっている(平成30(2018)年9月現在)。
引用:内閣府男女共同参画局「男性保育士が活躍している保育園」
どろんこ会は保育園でも父親と母親がいるような環境にしたいという思いから、男性保育士を意図的に増やそうと取り組んできた実績があります。
どろんこ会のように、男性保育士の役割を高く評価してくれる施設を選べば、男性も園長や管理職などキャリアアップしやすく、長く働けるはずです。
保育士転職サイトの中では以下のサービスが男性保育士向けの求人を保有しており、転職サポートも無料で提供しているため、転職活動がしやすいと考えられます。
※男性保育士向けの求人数は2024年11月2日時点の情報です。
このほか、以下のような保育施設も男性保育士の転職先としておすすめです。
大規模な保育園は比較的に男性職員が多い
大規模保育園は比較的男性職員が多く困ったときに相談しやすいため、男性保育士にとって働きやすい環境と言えます。
一般的に小規模保育園は子どもの数が20名未満、大規模保育園は100名以上、中規模保育園は小規模と大規模の中間の定員数が目安です。
特に、認定保育園や認定こども園は定員数が100名を超える場合も多く、大規模になりやすい傾向があります。
このため「女性ばかりで肩身が狭い」と悩む男性保育士は、認定保育園や認定こども園を中心に転職するのも一つの方法です。
男性職員の数が多ければ、それだけ男性の意見も通りやすくなる可能性があります。
また、男性職員が多い職場では、体力を求められる仕事も一人に押し付けられる可能性が低くなるため、仕事量の負担も軽くなるでしょう。
児童発達支援施設や児童養護施設は頼られやすい
男性保育士は児童発達支援施設や、児童養護施設でも需要があるため活躍が期待できます。
児童発達支援施設と児童養護施設の違いは、主に以下のとおりです。
対象者 | 主な指導内容 | |
---|---|---|
児童発達支援施設 | ・障害のある子ども | ・日常生活で必要となる基本動作の指導 ・集団生活への適応訓練 ・社会交流の促進 |
児童養護施設 | ・保護者のいない子ども ・虐待された子ども ・養護を要する子ども | ・生活環境のサポート ・心理的ケア ・就職や進路指導 ・子どもの自立援助 |
児童発達支援施設は0〜6歳まで、児童養護施設は原則として乳幼児を除く18歳までが対象となります。
このため、児童養護施設は0〜小学校入学前の5歳までを預かる一般的な保育園とはサポート対象となる子どもの年齢が大幅に変わるので注意が必要です。
児童養護施設のほうが、より大人に近い子どもたちと接する機会が増えるため、それぞれの年齢に応じた対応が必要となります。
また、児童発達支援施設や児童養護施設には、一般の保育園と同様に他の子とうまくコミュニケーションが取れず、暴力をふるう子も少なくありません。
このような場合、男性保育士が間に入ることによって、暴言や暴力のひどい子供を制止することができるため、園内で重宝されます。
女性より男性のほうが子供に「怖い」と思われやすいですが、問題行為を止めさせる場合には、そうした怖さが抑止力として武器になる場合もあります。
ただし、児童発達支援施設や児童養護施設では障害や心のケアを必要とする子どもたちをサポートするため、デリカシーのない言動には注意が必要です。
優しい言葉や雰囲気で子どもの心に寄り添うことが得意な方には、児童発達支援施設や児童養護施設は向いている可能性があるので検討してみましょう。
企業内保育所は少人数保育で保育士間で連携が取りやすい
男性保育士の中でも、女性ばかりの職場で肩身が狭くなるのは嫌だと思う方には、少数保育で保育士間で連携が取りやすい企業内保育所もおすすめです。
企業が自社の従業員の子どもを預かるために用意している保育施設のことです。企業内保育所は、認可保育園に分類される「事業所内保育所」と認可外保育施設の「企業主導型保育所」の2つに分けられます。どちらの場合も少数保育になりやすく、子どもが体調不良になった場合、保護者と連絡がつきやすいというメリットがあります。
企業内保育所では保育士の数が少ないため、仕事を完了させるためには男女関係なく保育士全員で協力し合う必要があります。
こうした企業内保育所であれば、男性保育士も人間関係で疎外感を感じず働くことができます。
ただし、企業主導型保育所の中には、助成金目当ての安易な経営参入により突然閉鎖に追い込まれるケースも発生しているため注意が必要です。
企業主導型は、待機児童解消の切り札として2016年度に導入された。認可外施設だが、認可施設並みの助成金が受けられる。企業が設置する形態と、保育事業者が設置した施設を企業が利用する方式がある。地域の子供を受け入れることもできる。自治体の認可が不要で、従業員の働き方に合わせた柔軟なサービス提供と、迅速な施設整備が可能だ。開設数は17年度末で約2600施設、定員6万人に上る。反面、助成金目当ての安易な参入も目立ち、突然の閉鎖や助成金詐欺などの問題が起きている。制度設計の甘さは否めない。
引用:読売新聞「企業型保育所 安心して預けられる仕組みに」
このため企業内保育所で働く場合は、できるだけ大手企業や、認可基準を満たし、経営が比較的安定している事業所内保育所を選ぶほうが安心です。